2013年7月7日日曜日

シンポジウム「日本のエネルギー・環境政策選択」Vol.1

7月6日に行われましたシンポジウム「日本のエネルギー・環境政策選択」-マクロ計量モデルを活用した日本のエネルギー・環境政策の評価と選択-に参加してきました。
聴衆ではなく話をする機会もいただいた、という話はこちらをどうぞ→通訳初体験

シンポジウムは3つの講演からなる第1部とパネルディスカッションの第2部とに分けて行われました。
このシンポジウムにおける、わたしが選んだ主要なメッセージは以下の通りです。

1. 再生可能エネルギーや送電網、エネルギー効率化への支出は経済的負担ではなく、投資であり有効需要である。

2. 原子力発電への依存をやめ、同時に炭素税を利用して温室効果ガス排出削減を行ったとしても、税収中立的な炭素税制度を構築することで経済成長(GDPの増加)をも実現することができる。

3. 原子力発電の利用の有無に関わらず、電気料金は値上がりする。


それでは各講演について順にざっくり振り返っておきます。
以下の内容はいずれもわたしが講演を受けて考察・編集したものであり、講演者のみなさまの見解に代わるものではないことをあらかじめお断りしておきます。
要は講演の内容とわたしの考えがわりと入り乱れているということです。
学術論文とかではないのでそのあたりどうかご容赦ください。




講演1:李秀澈(イ・スウチョル)教授(名城大学経済学部)
「マクロ計量モデルを用いた日本の炭素税改革の環境・経済効果」

まず環境税の「二重の配当」に関して説明します。
環境税の二重の配当論とは炭素税のように環境負荷を発生させる活動に対して課税し、一方で別の税や社会保険料などを環境税収の分だけ減税することで、2つの望ましい効果を同時に得られるという考え方です。
望ましい効果とは環境の改善と経済への正の影響を指します。

炭素税と所得税の減税を組み合わせた税収中立的な環境税制改革を例に考えてみましょう。
炭素税は主に二酸化炭素を排出する活動に対する課税であり、エネルギー需要を抑制し二酸化炭素排出を減らす効果を持ちます。
一方所得税の減税を行えば消費者の可処分所得は増えますから需要が喚起され、経済成長を促すことになります。

このような環境税制改革は経済的に望ましい活動への課税を減らし、経済的あるいは環境的に望ましくない活動への高率な課税にシフトすることと捉えることもできます。

さて、日本では289円/t-CO2という非常に少額の炭素税が2012年10月から導入されました。
税額は3年半かけて320円/t-CO2まで段階的に引き上げられることとされています。
これらはいったい二酸化炭素の排出量や経済にどのような影響を与えるのか、また2009年に成立した地球温暖化対策法案で設定された2020年に1990年比25%の温室効果ガス削減を行うにはどの程度の炭素税率が必要か、というのが李先生と後述するCambridge Econometricsとの共同研究の問題意識でした。

この分析において用いられたのがE3MGというマクロ計量モデルです。
E3MGモデルはケンブリッジ大学とCambridge Econometricsが開発したマクロ計量モデルで、経済(Economy)と環境(Environment)およびエネルギー(Energy)の相互連関を計量経済学的な手法を通じて捉えることができます。
モデルはPC上で動くソフトウェアとして構築されていて、そのライセンスはCambridge Econometricsが管理しています。
ちなみにこのCambridge Econometricsがわたしの9月からのインターン先であり、このE3MGモデルについても目下勉強中です。

分析の対象になったのは以下の4つのシナリオです。
S1:2012年に導入された炭素税率・炭素税収を財政赤字の返済に活用
S2a:2020年までに1990年比温室効果ガス25%削減が達成されるような炭素税率: 炭素税収を財政赤字の返済に活用
S2b: 2020年までに1990年比温室効果ガス25%削減が達成されるような炭素税率:炭素税収の95%を所得税の減税に、5%をエネルギー効率向上への投資に活用
S2c:2020年までに1990年比温室効果ガス25%削減が達成されるような炭素税率:炭素税収の75%は所得税の減税に、25%は雇用者の被雇用者に対する社会保険料の負担緩和に活用

これによるとGDPと雇用に対してもっともよい影響を示したのはシナリオS2bで、GDPはシナリオS1に比べて+1%、雇用は+0.4%の増となりました。
一方で炭素税率は燃料平均で17,721 円/toe~45,811円/toe、CO2に換算するとおおよそ6,000円/t-CO2~15,800円/t-CO2といったところです。
決して安くはありませんし、15,000円までいけば高いといえるかもしれません。
しかしこれらはすべて税収中立で、経済のゆがみを緩和するものです。
実際にGDPと雇用に対してはわずかながら正の影響が予想されていますから、炭素税が単独で持つ経済への負の影響は十分に相殺されうると考えられます。

ただし同じような水準の炭素税であってもその税収をどう活用するかによって経済に与える影響は大きく異なります。
もし炭素税を単に財政赤字削減のためだけに使ってしまえば二重の配当の恩恵を受けることはできません。
炭素税の導入だけでなく税収の活用手段についてもきちんと設計する必要があるわけです。


最初の講演だけでだいぶ長くなってしまいました。
明日は朴先生の講演「日本の2030年電源選択と再生可能エネルギー発電の環境・経済効果」についてまとめたいと思います。

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